平三坊/稲の孕みと子の孕みを願う

(2017.5.5)

かすみがうら市牛渡地区の鹿島神社では、豊作を願う御田植え神事「へいさんぼう」が毎年5月5日に行われている。

祭りが始まる前、準備を終えて休んでいる平三坊の姿。男根の迫力がすごい。

鹿島神社は1873(明治6)年に当時の牛渡村の村社となった神社で、祭りでは田植えまでの一連の農作業風景を地区の旧家が取り仕切って演じている。
田植えに関する祭りであり、先日紹介した「おんだ祭り」とは非常に似ている部分が多い。

始まりは平佐(平三とも)という農夫とその女房が田植え行事を面白おかしく演出したことから「平佐女房」が略されて「へいさんぼう」になったと言われている。今は皆この平佐のことを平三坊と呼んでいるようだったので、当記事でもそう呼ぶことにする。


平三坊と女房(女房役はなぜか二人いる)が準備を終えた15時過ぎ頃、祭りが始まった。


まず神主にお祓いを受けた神馬が神社本殿の周囲を3周回って、代掻きを表現する。代掻きは田植えの前に田んぼを整える作業だ。


なかなかすごい勢いで走るので、近づくことはできない。大迫力だ。


この神馬による儀式、『農と田遊びの研究』によると、1960年頃からは馬を飼わなくなってきたので、代わりに村人がハンドトラクターを運転し、勢いをつけて拝殿の階段までのし上がっていたのだという。

つまり元々神馬でやっていた儀式が時代の中で近代化してトラクターに変わったものの、伝統保持的な観点からまた現在では使われていない馬での儀式に戻ったということだ。どんどん祭りが変容しているのがわかり、とても面白い。


続いて平三坊が登場し、馬鍬で更に地面を整える所作を行いながら同じように神社の周りを回り、そのあとは紐にぶら下がった男根を放り投げたりしながら徘徊する。


籠の中にはもう一本男根があるので、何故か男根が合計二本になってしまっているのはいいのだろうか。あ、そういえば女房のおかめはふたりいたからそういうことなのかな…??おいおい、やるなぁ平三坊…。


続いて平三坊はその籠の中に入っていたもう一つの大きなほうの男根を取り出し、股間にあてがい練り歩き出す。



見物客の女性が「お願いします」と近づくと、ご覧のように交合を演じてくれる。子宝に恵まれるとのことで、何人かの女性が近づき更に平三坊はモテモテだった。



最後に平三坊は、稲が大きく実るようにと願う「稲孕みの予祝」の意味を込めて木製の男根を女房役のおかめに押し付ける。



たくましい腕を見ていただければ判ると思うが、このおかめはおじさんが演じている。おじさん平三坊とおじさん女房のセックス、そしてそれを取り囲むおじさんカメラマン。おじさんしかいない世界である。




もちろんこれがこの祭りで一番盛り上がるところではあるが、儀式と言うよりは観客が写真を撮るためにポーズをとってくれているといった感じだった。

こんなに盛り上がっているこのおじさん撮影会だが、なんと『農と田遊びの研究』によると「交接の態は演じない」とある。以前はこのようなサービス性交タイムはなかったようだ。

これも先日紹介したおんだ祭りと同じく、観客の目を意識してどんどん性的な所作が派手になっていった結果だろう。


また、更に古い明治44年の『風俗画報』には

一尺ほどの丸太棒を縄にて縛りつけ、地上に叩きつくること数十回。(従来この棒は道教様とて太古の石棒を象りたる男根様の物にて、これを左手に持ち右手に大杓子をとりて撞きながら廻りしを風紀取り締まり上其の筋より禁止せられ今の物体に改む)

との記述があり、男根の使用が禁じられていたので丸太棒で代用していたことが判る。
また更にそれ以前は“道教様”と杓子で性行為を模していたことが書かれている。この程度のパフォーマンスで取り締まられてしまうのだから、当時からすると今現在の平三坊はあまりに過激すぎるものに変容していることだろう。

ちなみにもうひとりのおかめ女房を演じているのは女性で、基本的に「こっちにも来て~」と手招きしているだけだった。


平三坊たちが退場すると、菅笠を被った早乙女役の女の子二人が神職に手を引かれ拝殿前を行ったり来たりする。先ほど行われていたこととあまりに違うほっこりした可愛らしい神事で、緩急の差がすごい。


早乙女によるこの田植えの演技で祭りは終わる。
間違いなく「田植え神事」の儀礼として大事なのはこちらだと思うのだが、すっかり主役が平三坊に変わってしまっているところに人間の性的好奇心を垣間見ることができる。


そういえばなぜ女房のおかめ役が二人いるのかも不明らしい。
平三坊の子作りの力、ひいては豊穣力を強調する為であろうか…。


更に『ささ、日本百名祭へ』によると、この祭りのいわれは「農夫平三の女房が、田植えを前に臨月を迎えてしまった。田植えを延期させるわけにいかず、平三は神に祈り出産を遅らせてもらう。無事に子宝にもありつき感謝と共にこれを祭りとしていったのだ」ともっともらしい由来が語られているが、これも真偽のほどは不明。


いずれにせよ、露骨な性描写が見られる貴重な祭りとしていつまでも残っていって欲しいものである。
ちなみにおんだ祭りとは違い、平三坊を演じているのはもう何年も同じ方。是非次の平三坊も無事育って欲しい。


参考文献:新井恒易『農と田遊びの研究』、重森洋志ほか『ささ、日本百名祭へ』、常陽リビングHP


日時:毎年5月5日、神事は15時頃~
場所:〒300-0213 茨城県かすみがうら市牛渡(駐車場はないので路駐すべし)

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